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第十四幕 クリスマスの前日―後編








途端、翡翠は先程とは違う破顔をした。まるで、親を見つけた子どもの様な・・・。
「どうしたの、こんなとこで」
「言っただろう。私は皆から嫌われているのだ」
そういえば彼と始めて会った晩に言っていた。
自分は嫌われ者だから、自分と会った事は、誰にも言わないで欲しいと。
「なんでみんな、ペルソナのこと誤解してるのよ。ペルソナは、優しい良い人なのに―」
細道に入り、膨れっ面をする少女の頭を彼は撫でる。
「お前は優しいね」
なんだかこそばゆかった。照れくさくて、視線を逸らしながらも笑んで、翡翠は言った。
「で、何か用?」
「うん・・・記憶の方は戻ってるのかなぁ、と」
「・・・」
翡翠は黙ってしまった。
「ああ、すまない。きっとすぐ思い出すさ」
励ます彼はもう一度、少女の頭を軽く撫で帰っていった。



水を汲みながら少女は悩んでいた。ペルソナに棗の事や、記憶の断片を話すべきか。
『でも―あたしは棗と友達になったもの。はやく記憶を取り戻したいのは山々だけど、友達を巻込む訳には、
いかないものね』
苦笑いをしながら、水を運ぶ。
「大丈夫。絶対あたしは棗を傷つけない。巻込まない」




二時間程準備をして、ケーキは大方出来上がっていた。あとはチョコプレートを明日まで固めて、乗せるだけ。
「では、解散」
先生の掛け声で生徒は三三五五に帰寮する。
「じゃあね…」
中等部寮に帰って行くのばらを涙ぐみ見送る蜜柑と、笑顔で手を振る蛍と翡翠。
それぞれの部屋に分かれ、ベッドに倒れ込んだ。







夢を、視た。
男が、自分に手を伸ばす。恐怖に固まる 響き渡る憎悪の声。
『お前はバケモノ』『日の光を浴びることは生涯赦されない』『地に這い蹲り、一生闇に生きろ』
『否。お前の存在理由は只一つ』『我々の為に』
『そう。我らが、“一族”の―』
それは、絶対服従の命令。回避不可能な言の葉。

そして不気味な高笑い。誰かの悲鳴が聞こえる。
あれは、あれは―。




「いゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」



                       「翡翠!」

誰かに呼ばれて、目が覚めた。
叫んだのは自分だと気付くのに大分かかった。
「・・・大丈夫か?」
心配そうな顔(本人に自覚はないだろうが)で聞くのは、日向棗。ベッドに倒れていた翡翠の上に馬乗りになって名を呼んでくれていたらしい。
「…」
吐息の掛かる距離。なんだか覚えがあった。しかし…。
「と、取りあえずどいてくれる?」
「わ、悪い」ベッドの端に腰掛ける。
互いの顔が、赤い。
「―どんな夢だったんだ?」
場を誤魔化す言葉だっただろうが、翡翠にとっては―。
「―多分、過去の記憶」棗の肩がピクッと跳ねる。
「声が・・・“命令”が、聞こえるの。それには絶対逆らえない。そして―男の人が私に手を伸ばすんだ。
誰かの悲鳴が響いて―」
震える身体から、何かから守る様に両足を抱えて、顔を俯ける。
「・・・・・・それが、その人が、怖いのっ・・・」
動悸と頭痛が、激しい。吐き気がする。胸元から薬入れをだし、丸薬を呑む。
なのに、収まらない。


彼は、だれ?

“一族”って、なに?

私は、

なにもの?


「っ・・・」胸焼けを抑える様にシャツを掴む。
「―ユゥリ「だめっ」」
何かを決心した棗に、翡翠は、止めた。
「いいの。な、つめ。あ、たし、は、なつめの重荷になん、かにな、りたくないの・・・なつめ、が、言わないって、決めたなら、あたしは・・・あたしはきかない・・・自分で、おも、いだす。貴方、を、巻き込みたく、ないの・・・守る、から、っ―」
言い終えると、彼女は意識を失った。
「・・・」
棗は彼女の、決死の言葉に固まっていた。我に返ると、少女に毛布をかぶせ、己の部屋へ帰る。




―バタン





「畜生――――――畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生っ!!!!!!!!!!!!」
棗は唇を噛み締めて、顔をくしゃくしゃに歪め、拳を壁に打ち付け、涙を流し激昂する。
「なんで―あいつばっか背負うんだ・・・俺は・・・俺はっ!!!」
棗を、ユゥリを苦しめる鎖は刻一刻と首を締め上げる。





「絶対・・・守るから・・・


           今度こそ、絶対、手を放さないから」









過去の悪夢は蘇る


                         鎌首をもたげてそれは再び闇へと


                                         引きずらんとする―
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