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第十幕 過去を知る者達




第十幕 過去を知る者


翡翠が眠っていたのは一時間ほどらしい。
医者の話では、記憶の戻る反動で、脳が激痛を伴ったり、記憶のない不安から発作が起きたりするらしい。今回の場合は前者の線が強く、記憶回復は以外と早い可能性が高いそうだが…。
「一つねぇ、引っかかっているんです」
別室で診察の結果を聞く鳴海に、医者は続ける。
「どうも、脳の記憶を戻す為の働きを促進していた何かがあるんですよ」
記憶回復を促した、何か。
「それって、一体―・・・」


みんなが謝ってきたり、それを平気だと答えたり、馬鹿話で笑わせてもらったり。
なんだかんだで、一日は終わろうとしている。
 翡翠は、気づいていた。
騒ぎから離れた病室の隅で、無表情にこちらを見つめる少年がいたことに。
彼の表情が、本当は酷く苦しげなものだと言うことに。




月が登りかけた頃。
様子見という判断で、翡翠は皆と寮に帰る事を許された。
「翡翠はそういえば、星階級なんやっけ?」
「星階級?」
この制度を知らないらしく、蜜柑の問いに彼女は目をしばたく。その仕草に多数の男子が心奪われたかしれない。
「えっと、星階級って言うのは、生徒の授業態度や成績、それにアリスの強さとかが考慮されて付けられる評価システムのことだよ」
ひょこっ、とあらわれ説明したのは委員長。
「・・・あ」そういえば、と何か思い出した様に、翡翠はポケットを探った。
「このバッチ、関係あるかな?」
しかし、翡翠の質問に、誰も答えられなかった。
彼女の白純の手にのっている、金色に光るバッチは・・・。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ス、スペシャルゥゥゥ!!!!!!!!!!?」






「うん♪だって彼女のアリスは珍しいし強いし、美人だし♪」
いや、最後のは関係ないだろと突っ込みながらも、納得した。
「ついでに言うと、部屋は棗君の隣りです❤」
後ろに立っていた棗が息を呑み、翡翠もぽかんとした。

寮に戻り、三三五五に別れると、いつしか棗と二人きりだった。
「・・・今朝は、ごめんなさい」
唐突に頭を下げられた棗は驚いたが、ふい、と顔を背けて。
「別に・・・」
その様に、不安を覚えた。ふと、笑顔で、
「ねぇ棗君。棗って呼んでいいかな?」

―なつめって呼ぶね―

舌足らずな口調。穏やかな笑顔、優しい瞳・・・

「ああ・・・」
そう答えるので、精一杯だった。過去と今の景色がブレる。
「うん。・・・」
静まり返る廊下。満月が雲に隠れて、彼女の顔に影を与える。

「棗」

決死の質問。
「棗は、あたしを・・・あたしの過去を知っているの・・・?」

『棗』

『棗・・・私は、なに?』

『わたしは、”バケモノ”なの―――?』


痛みを伴う過去に彼は目眩を感じる。

それは、封印された記憶。哀しい物語―。







カタンッ―

不意に、背後から音がした。そこに居たのは―。

「―流架」

金髪にパジャマと揃いの蒼い瞳・・・乃木流架だった。

親友の呼び掛けにも答えず、ルカは彼の隣りに立つ少女を見据える。
落とした湯たんぽも拾わず、一心に、目が放せぬかのように見開いた瞳で観て居る。

月の光が雲間から差した。

「っ!」
息を止めたかの様に、ルカは固まった。
少女は、横にいた少年の他に感じる視線の方に、目を向けた。

はっきり互いの顔を見た。

『ルカ』
自分の中のコエが叫んだ。

「―





ユゥリ・・・」






呟いた声は、神託の様に。


                   少女の心に、響き渡った。


雷に撃たれたように、胸が、頭が痛い。
体が勝手に、震えはじめる。

でも。


『逃げるな自分』

逃げないって、そう決めた。

ちゃんと、思い出そうって。決めたんだ。

―勇気、もらったから

決意を思い起こし、努めて平静を装った。
「棗、答えて。彼もなにか知ってるの?」
棗の顔が強張り、ルカが足を進める。
「棗―どうい「答えて」!?」

それは、酷く冷静な声で。
なのに、必死さが伝わる声で。
何より、彼女が言っていて。
「お願い、何か、欠片でもいい、手がかりが欲しいのっ!
私にも家が、家族があった筈なのに、なのに思い出せないの・・・」
そっ、と
彼の腕を掴み、懇願するのだ。
「知りたいの、いいえ。知らなきゃいけない。そうしなきゃ・・・私は一歩も前に進めないっ」
最後は揺さぶらんばかりに訴える少女。
それを苦しげな顔で見ていた棗は、不意に。


肩を掴み、突き放す。






「―知らねぇよ。お前なんか」




氷の様に冷たい声。温度の無い表情。
翡翠は、目を見開き、信じられないという表情で見る。
「う・・・そ」

絶望仕切った顔で呟くと、力が抜けたかの様に、糸が切れたかの様に、彼の胸に倒れ込む。

それを受け止めた棗の顔には、また苦悩が。
「ユゥリは・・・忘れてるんだね。今までの事―俺達のことも、アノ事も・・・」
今まで沈黙していたルカが、苦しげな目で言う。
「教えて、あげないんだ・・・?」
親友の問いに答える彼。
「ああ」
瞳は枯れていても、声は悲哀に溢れる。
「忘れたなら、そのままの方がいいんだ・・・」


少女を守る誓いを建てて。




―今度こそ、お前を守るから―

         

        

    運命は残酷に進む

              偽りの平穏と

                             新たな傷を与えて
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