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第八幕 記憶













 目が覚めたら、何処かに立ちすくんでいた。

                暗く、深く、透明な。

薄い碧掛かった、冷たい世界。

                          まるで、水底に取り残された様な。

     冷たく、非現実的な光景。

                    まるで、私みたいだと思った。

  私の、頭の中みたい。

                            氷の様に冷たく、時間の流れが止まったみたい。

                 

         何もない、淋しい場所。
















『サビシイ











   サビシイサビシイサビシイサビシイサビシイサビシイサビシイサビシイ―』

 




    また、始まった。

誰かが叫ぶ、孤独だと。

 私の頭の中で、破裂しそうになるほど。

        一体、誰なのか。






『にげるの?』
                 そう、誰かが問うた。幼い声で。

逃げるって何だよ、うんざりなんだ。
                    
                   頭の中で、割れ鐘が響くように孤独だとか、淋しいとか騒がれるのは。


『にげるの?そうやって、たにんのふりをして』


   繰り返された問いかけ。
                          見えたのは、幼い少女。
すり切れた服を着て
                             大事そうに、絵本を抱きしめている。

             子供は、言葉を続ける。

 


『ねえ、どうしてわたしを忘れるの?さびしいというさけびをきょぜつするの?』

対峙する幼子は、訴える。         


『ねえ、どうして?』

薄暗い、何もない世界の中、手を伸ばす。―否、今は、いつの間にか満ちていた。

 赤く。紅く朱くアカク。


             空が、海が、世界が。


                        全てが真っ赤な血色の、手に飲み込まれたんだ。



『どうしてわたしは押しつぶされようとしているの?無かったコトになりかけてるの?

 わたしはたしかにここにいるのに、じぶんだけ楽になろうとしているのね。 ひどいわ―   』


   囁かれた名は、
                 いつか棗が囁いていた、

                          
                              暖かくも苦しい、哀しくも懐かしい響き。


揺らめきうごめく、不気味な手。

          
       無数に伸び、泡のように膨らみ、少女を押しつぶし、隠れさせ、飲み込んでいる。


                               少女は、手を

    その、白く美しい手を、伸ばす。
   


         長い黒髪に覆われた、その顔を振り上げる。


                                  その顔は、幼くも確かに、



『ひとりは淋しい、ひとりは怖い。愛して欲しい、抱き締めて欲しい





                             そう思っているのは、あなたなのに・・・』












翡翠に      うりふたつの顔をしていた。



                  潤んだ翡翠色の瞳が


    白く細い手が

            漆黒の長い髪が


すり切れたキャミソールの裾が


                         小柄で幼い躯が






   全てが、血染めの手に堕ちた。




残されたのは、彼女だけ。
いや、もう一つあった。
少女が大切そうに抱いていた絵本。
震える手で、開く。








真っ白だった。雪の様に、真っ白だった。
しゃがみ込んで、絵本を抱き締めた。
何故か、涙が止まらない。



何処に。


私の記憶は何処にあるの?


知りたい。どうしても知りたいのに。


『にげるの?』

そう。どこかで私は逃げている。
時折見える過去の残滓におびえて、逃げている。

どうすればいいの―?



浮かんだのは、紅い瞳の少年。
彼と会うと、胸が苦しい。
切なさに暖かい感情が入り交じった、まるで蜂蜜色の日差しみたいに、
見ると優しくて甘いのに、何故か哀しくなる。
とても複雑で、でも、嫌じゃない。
なのに。
今は、その感情を上回る程の、恐怖がある。
彼を思い出すと、同時に流れてくる。

           愛されたいと、もがき泣く雛への、

                   冷たい絶対服従の”命令”が・・・


『お前は逃げられない』

『逃げられない』

『一生ココから出ることは』

『日の光を浴びることは』

『許されない』

『ただ働くがいい』

『我々の命令を聞くだけの』

『操られるだけの存在になるがいい』




誰か






誰か私を見て









愛して








誰か








私も











誰かを愛してみたい











温もりを感じてみたい













いいえ。神様、贅沢は言いません。














愛されなくてもいい












見られなくてもいい
















一つだけ叶うなら














私は、一度で良いから、誰かの隣に立ちたいです。
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