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【オリジナル】と或る少年と少女の、夏のお話し。【NL】


 金色の髪を二つにゆるく結って、その上に麦わら帽子を被った少女を連れて歩く。
 ビーチサンダルと足の間に入った砂粒がくすぐったいような痛いような、どっちつかずの感触。もうずいぶんと、海なんて来ていなかったから昔どう思っていたかも思い出せない。
 水平線の向こうに沈んでいく夕日が眩しくて一筋の涙を流すと、つないだ手を軽く引かれて少女に目をやれば、不安そうな顔をしている。
「大丈夫だよ、きれいなものを見るとね、心の器から、こぼれちゃうんだ。ぼくの器は、もういっぱいいっぱいで、入りきらないから」
 よくわからない、というふうに首をかしげながらもぼくの言葉を懸命に聞き取ってから少女は、その大きな海色の瞳にぼくを写して、つないでいない方の手で自身の右胸、次に左胸を軽く指先をつぼめた形で叩いた。
 それを見て、また涙を流すと慌てた様子で繋ぐ手をほどき、下げていたポシェットから取り出したハンカチを差し出してくれる。
「ああ、愛しいなあ」
 呟いた言葉はやはり聞き取れなかったようで、懸命に伸ばしてくれる手から布を受け取り、軽く己の目頭を押さえた。
 ぼくの中身は、この可愛い少女との思い出で埋め尽くされている。耳が聞こえない君に、聞こえないと分かっていながらぼくは言う。
「好きだよ。君が聞こえない分まで、たくさん覚えておくから。きみは、ぼくの分までたくさん、見て、感じて、器を満たしてね」
 言いながらぼくはハンカチを返して、放していた点滴スタンドを握りなおした。

不治の病にかかった少年と、聾唖者の少女が最後に過ごした夏のお話し。
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