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宛名のない手紙



息が、詰まる。
顔を起こした。姿勢が悪いのは悪癖だ。
机の上にはルーズルーフが数枚。ほとんどが授業のものだが一枚だけ、宛てのない手紙。
私こと美儂(みの)は先月、恋人と別れたばかりだ。別れは自分から切り出した。
なんとなく付き合いだして、なんとなく嫌になって、それが次第に吐き気を覚えるほどに肥大した。
なぜ告白を受けたのか、そもそも本当に好きだったのか分からなくなり、終止符を打った。
今となっては、なぜ別れたのかも分からない。すべてが水底にあるように、曖昧で。
「ミノ、ご飯行こうよ」
友人に声を掛けられ、終業のチャイムに気付かなかった自分に苦笑した。
熱中していたのは勉強か、それとももうひとつの方かは分からないけれど。
「学食?」
「うん、お弁当忘れた」
恋人がいたころは欠かさず作っていた弁当も、今はサボりがちだ。
自分のと彼のと、二つ作るのは体調にも財布にも響いたが、それでも楽しかった自分もいた、と思う。
別れを考えていたころは面倒でしかなかったが。これが愛情の冷めかと知った。
「あ、そうそう」
思索にふけっているこちらの内心を、知ってか知らずか。
「あんたの元彼、新しい子できたらしいよ」
何でもない風にもたらされた情報を、私は粛々と受け止めた。



『俺は夢を追いたいから、お前は家計を支えてくれな』
人生設計を語る彼、そこでの私はおかずでしかない。
あるいは土台、あるいは踏み台。
自分に無限の選択肢と、愛を囁き肉欲を満たす手ごろな女を囲い込む。
心身ともに充足、といった体の彼を、同世代の男たちは『リア充爆発しろ』と笑い、陰で妬んだ。
それを知りながら殊更、彼らの目の前で私を愛玩したのは自慢か、予防線か。
自分の勝手で友人を減らした彼は、さらに恋人(わたし)にのめり込む。
客観的には共依存、主観から言えば貼りつかれたガム。
『これじゃあだめだよ』
と言ったとき、泣いて暴れる彼を諌めながら、どこか冷めた気持ちになった。
『お前がいればそれでいい』
聞こえはいいけれど、閉じた世界に一人を囲って、『守ってやる』と笑うさまは滑稽で。
籠の鳥を愛でる日々はさぞ平和だろう。
だから美儂は鎖を切った。仮にも一度は愛した男を、自ら腐らせたくはなかったから。
「これもまた、自己満足なんですけどね」
呟く言葉は届かない。届ける当てもない。
別れた日にはメールで直接、そのあとはネット上で元彼女を侮辱するだけの簡単なお仕事に、しばらく彼は従事していたけれど。
「そっか。好きな子、できたんだ」
もともと私と彼が深い仲になったのも、彼が別の少女に恋をし、相談を受けていたからだ。
『振られたくない、どうすればいい?』
『自分に自信を持ちなさいよ』
そうして話を幾度かするうち、彼は「やっぱり君にする」とだしぬけな告白をかましてきたのだ。
「ああ、やっと思い出せた」
なんだ、最初から私は、彼の逃げ道だったんだ。
その事実に気づき、苦笑するしかない。
「時間を浪費させて、申し訳なかったなあ」
今更言っても詮無きことだけれど。
ただ、願う。
今度は彼が幸せを掴めるように。私はそばにいられないけれど。
「私は君の、お母さんじゃないから」
私は君の、友達になりたかったんだよ。











恋、愛というものが分からないから、私は綴るしかないのです。
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