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カンタレラ―第2夜 奴隷市場と薔薇の数

アリス邸は、森に囲まれるようにしてある、小高い丘の上に建つ。
広大な庭には多種多様の花が咲き誇り、中でも薔薇庭園は主人の気に入りだった。
初めて会ったときも髪に挿していたな、手入れを入れながらルカは思う。


ルカは払国の田舎貴族だった。爵位はあるものの形ばかり、父も母も庭いじりを使用人と楽しむような気取らない人たちだった。そういう親の影響もあってか、ルカも草花は好きだったし、庭や近くの森に行くと必ず構ってもらいに来る、動物たちと遊ぶのも楽しかった。
一人っ子のルカは多少溺愛気味ではあったが、比較的自由に家を出入りできた。
日課の、馬小屋で動物たちと戯れていたときだった。いつの間にか寝入ってしまったようで、気づけば夕方になっていた。
「いけない、ママに遅くなったら怒られちゃう」
あわてて家に戻ると
「…え?」
両親も使用人も殺され、家を複数の男たちが漁っていた。

それからのことはよく覚えていない。あれは物取りで、自分達はその被害にあったのだと気づいたのは大分後。
男たちはルカを殺さず、逆にその容姿に目を付けて彼を奴隷市に出した。わずか8歳のときのことだ。
どうしたらいいの、と彼は呟く。強盗なんてめったに出ない田舎で、大して財もない家だった。
父も母も優しく、愛情をたっぷり与えられて育ったお坊ちゃまに過ぎない彼には、突然わが身にふりかかった凶事に対処する冷静さも、強さも持ち合わせていなかった。
「知らねえよ、んなの自分で考えな」
答えなどないはずの答えに応えた、声は幼かった。
容れられた牢、四畳半の隅に座る彼の、対角線上に座っていたのは、同い年くらいの少年と、少女二人。
少年の黒い髪はぼさぼさと長く、体はガリガリに細い。真っ赤な目は忌み子の証だと、メイドに聞かされた覚えがある。けれどルカはその瞳に禍々しさより、憧憬を抱いた。

それがルカと、ナツメ達の出会い。
ナツメはルカが売られた奴隷市の古株で、次点でミカン、その2年後にホタルが売られてきたらしい。
同い年ということでなんとなく一緒につるんでいたところ、お互いの過去を話し合い意気投合、親交が深まったという。ナツメはその瞳から忌み子として売られ、ミカンは両親を早くに病いで亡くし、自分を育ててくれた祖父は経営していたギルト(商会)が解散、借金の型として売られた。ホタルはルカと同じく貴族、ただし都市に屋敷を構えるそれなりの名家だったそうだが没落してしまい、一家離散ののち攫われ、売却されたらしい。
「ウチらはみんな、ほんとの家族とひきはがされたって点でおんなじなんよ」
だから、とミカンはルカの手をとる、その手は傷だらけだった。
母と父の手は、庭仕事が好きで普通の貴族に比べれば汚かった。けれどルカには、それが誇りだったのだ。
父が生前言っていたことを思い出した。
『生まれとか育ちとか、そんなものは神様があらかじめ決めたものだからね。その人を判断するのに大事なのは、そこじゃない』
そこからどう考え、どう生きるかだよ、そう晴れやかに言った笑顔が、目の前の少女に被る。
「だから、ルカくんもうちらの仲間やね!」
「…なかま?いいの?」
「あったりまえやん!な、ナツメ!」
話を振られたナツメは興味なさげに、「決めんのはそいつ自身だろ」とだけ答えた。
「自主性を促してるつもりなのよ、彼」
同様に一見クールに、しかしおだやかに笑んでもう一人の少女、ホタルは呟いた。
「え」
「彼、自分がさっき言ったみたいな過酷な環境で育ったからか、似たような生き方の人には結構優しいのよ。もちろん、その人の本質を見定めての、だけど」
優しさに甘えるようなのにはなるな、と言外に言っているらしい。
そう解釈し肯けば、美少女の態度は軟化する。
「ミカン、ルカくんはままごとで娘役にしましょう。ボクっ娘設定で」
「ホンマ!?やったー、妹ができたやん!」
おもにからかいの方向に。それを無邪気に喜ぶミカンも含めて、少年は赤面しながら
「お、おれは男だ!息子だっ!」
と否定した。それでもままごとに参加する意向はある、とホタルが解釈しミカンの喜びように断りきれず、ホタル脚本のわりかしリアルめ設定の、貴族社会の昼ドラ的抒情大目なおままごとに強制参加させられたのは別の話。



「なに一人で笑ってんの?」
後ろから冷たく指摘されたことで、自分がいつの間にかニヤついてたらしいことに気づく。
ついでにあわてて振り返れば、メイド服をまとった黒髪に紫水晶の瞳の少女が、あきれ顔で佇んでいた。
「いや、ちょっと思い出してて」
「…思い出し笑いするひとってエロいらしいわよ」
ホタルの視線にどこか蔑みが混じったのは、気のせいだと信じたい。
「ま、いいわ。昼食の用意ができたから戻りましょう」
「あ、うん」
あわてて手に持った、剪定用のはさみをしまおうとしてふと思いつく。
ジョキ、と数輪切り、手に持って少女に並んだ。
「…それ」
「うん、ノバラの、部屋にでも生けてあげたいなって」
薔薇の数は、5輪だった。
「……今、出会ってからはじめて、ルカくんも男の子なんだなって思えたわ」
「え?なにが?…ていうかはじめてなの!?」







薔薇の本数には意味があるそうです。
1本だと「一目ぼれ」、「あなたしかいない」。
3本では「告白」、7本では「ひそかな恋」。
999本では、「何度生まれ変わっても君を愛す」なんて、洒落た言葉になるそうで。
ルカがノバラに送った薔薇の数の意味は、お分かりいただけたでしょうか?
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