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旅行だったので

先週更新ができませんでした。申し訳ありません

お茶請けに、小噺を追記に残してます。よろしければ

次回まとめて更新いたします。それでは。










久々に、外の空気を吸うと解る。
都会の空気は汚れてる。病院の中の冷たい清潔さとは程遠い。
自分の知る血の匂い、なまぐささと一種清廉さを感じさせる芳香と、ガソリンくさい首都の歩道は雲泥の差だ。死と負の感情に満ちた空間よりも、喜怒哀楽の満ちた、『生きた』世界の方が腐臭に満ちているなんて。
「なんて、滑稽なの」
久しく発した声は、だれよりも愛する少女と同じ。ただどこか、卑屈めいているね、と飼い猫は指摘した。
自覚はある。自分は陰で、影が住まいで、あの子は翳の私なんかに気づくわけもなく。
くすんだ髪をなびかせて、それでもと少女は進む。
翳が自立するからあの子は正気で、幸せでいる。ならば、それでいい。
私はあなたを愛しているけど、あなたの枷ではないのだから。

耳鳴りがする。目を開けると、両親と白衣の男、看護婦と思しき女たちと親友が泣きながら笑っていた。
病室、痛む手首には包帯、リストカット。飛び交う情報に頭が割れそうになる一方で、洪水のような外的情報にも埋められない、欠落を感じた。
思い出す、というほど明確ではない、走馬灯のように駆け抜けた光景。いじめ、両親の不和、レイプ。世界を呪い、自分の穢れを恐れ、私は狂いそうだった。怒涛のような感情の羅列を、手首に一線、深い傷をえぐることで解消していた。一度じゃ足りなくて、何度も、何度も、繰り返した。
そして、気づいたら病院だった。
明かりの消された受付で、鈍痛のある手首には赤い花の入れ墨。
「彼岸花だよ」
背後から声が聞こえた。振り返ろうとした刹那、目隠しをされる。その手は冷たく、しかし柔らかかった。
「きれいだったろう?君が咲かせた花は」
男の子みたいな口調で話す、声からして自分と同年代であろうその子は問う。
「君は本当に、穢れたのかな」
無理やり奪われた処女は戻らないけど、それは致命的な傷なのかな。
薄暗い受付、非常灯の明かりひとつ。
その上おおわれた視界は暗く。少女はがたがた、震えていた。
「死んじゃったら、ここよりもっと暗いところに行くんだよ」
「いいの?」
問う声は一人のものにも、二人、三人と増えたようにも思えた。
「だって。誰も私を、必要としていない」
「おかあさんも、おとうさんも、○○子もクラスのみんなも」
「狂いそう。いつから世界はこんなにいじわるになったの」
スカートをぎゅっと握りしめた、その手を冷たい手がとった。
目隠しをしてたその手はそのまま。それを気味悪いとは思わなかった。
「世界はいつだって意地悪で平等だよ。ごろごろ川辺の小石みたいにたくさん選択肢が転がってて、私たちは拾わなきゃいけないんだ。どんなにすりきれて、血が出てもね」
ざり、と擦れる感触。この子にハンドクリームをあげたいな、と思う。
「それでも狂いそうだったら、君の狂気をもらってあげる。君が笑ってくれるなら、また小石を拾ってくれるなら」
「あなたの顔を見せてくれたら、頑張るわ」
そういうとはじめて、彼女は逡巡したように思った。けれど笑って
「ドッペルゲンガーを見たら、死んじゃうよ」
と言いながら、目隠しを外して頭を撫でてくれた。
思い出した、死の淵での出来事。私を喰らわず生かしてくれた、ドッペルゲンガー。
こぼした涙は、悲しいからじゃなく。
「ありがとう、『ゲンガーさん』」

窓から見下ろした病院の入口で、手を振りながら笑いながら、消える少女が、いた。
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