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第二十七幕 想イ出・4 少年が壊した鎖それは少女の―



少女の言葉に、彼等は固まった。
当たり前のように、凄絶な姿で、幼い少女は言ったのだ。

『あなたもわたしをころすの?』

「―違う」
ややあって、棗は、搾り出すように答えた。
「じゃあ、なにしにきたの?」
相変わらず舌足らずに、首を傾げたまま彼女は問うた。
「お前を・・・助けようと、思った」
率直に答えると
「・・・たすける?なにから?」
本当に。本気で分からないとばかりに、彼女は聞き返した。
「え、だから・・・君、さっきの男に『明日処分する』とか言われてたじゃないか!だから君をこんな目に合わせてる連中から早く連れ出さなきゃ―」
思わず口を挟むルカ。だがしかし。

「―よけいなことしないで」
打って変わったように、少女は彼等を睨みつけた。
舌足らずな口調は変わらないのに、挙措が変わっただけで別人のようだ。
その瞳は、そう。先程見えた、燃えるような意思を表す光を宿していた。
「わたしは、ここからでるつもりはない。にげるきもないわ」
鋭い、張り詰めた糸の様なそれに、背筋が泡立つ。
恐怖と、それ以上の―惹きつけられる様に。
「ここにいなくちゃ―やくそくを、まもらなきゃいけないの!」
叫ぶようなそれと共に

ピシリ

突如、見えない糸が縦横無尽に張られた。
筋肉の自由が利かなくなり、動きが止まる。
彼女の片手が、薄緑の光を帯びている。
「いくらきずついたってかまわない。わたしは死なない。『彼』が生きている限り―」
最後の言葉は、はっきりと。まるで、何度も繰り返し口にしていたかの様に、はっきり言の葉に乗せた。
「だから、かえって」
鋭い目は力を練り、彼等を”繰る”。
「しょぶんになんてきょうみは ない。『死』なんてこわくないもの―」


言葉が、途切れた。


途切れた言葉は、吐息となって空気に入り混じる。
「・・・っ、ばかやろう」

少年の片割れが、少女を抱きしめていた。強く、強く。
引き剥がそうとする力を無視し、その腕は激しく抱擁を続けた。
「・・・なに、するの」
問いには、答えない。
「死が怖くないだ?約束を守るだ?んなの俺らにとっちゃ、知ったこっちゃねえんだよ!」
赤い瞳を見開き、叫ぶように。或いは、少女の心へ届くよう、祈るように。
「だったら何故お前は泣いている?何故震えている?強がるのもたいがいにしやがれ」
「っないてなんか―ふるえて、なんか・・・」
泣いていた。
邂逅した当初から、ずっと痛ましい顔をしていた。『ころすの?』と問うた時などは、乾いた瞳に反してその表情は苦しげだった。
細い矮躯は、彼の腕の中で小刻みに震えている。
「こんな小さい背中で、何もかも背負おうとするな」


彼等とそう年頃の変わらない少女は

背負うことだけを考えて、己を疎かにし過ぎていた

『生きたい』、『幸せになりたい』という当たり前の思考を押しつぶして

ただひたすら、『約束』を守り続けていた

それを見抜いた棗は、真摯に言った。


「俺ら、俺がお前を守るから。ひとりにしないから」

だから

「今だけは、思いっきり泣け」

もう涙なんて、流させないから


己の知る『倫理観』という鎖から解き放たれた少女は

少年の胸の内で、静かに

久方ぶりの涙を、流した

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