スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

弟子とバンドと名探偵


















次の狙いは、ソプラノ歌手。女なら力は弱いし、簡単に喉を裂いてやろう。いや、まずは指からだ。歌手だって指がやられたら、マイクを握るのに困るはず。きっと怪しまれない。
標的と思われる影に、そっと近付く。そして、素早く片手を背に回し押し倒し、首に刃物を当ててやり―――




「そこまでだ、アーサー・ワトサン!!!」



突如付いた明かりに、少年は思わず目を覆う。よく見れば何と、彼が標的と思っていたのは、ただのマネキンだった。
「ただのじゃ無い。被害予定者に似せて作られた、特注品だ」
眉根を寄せて否定するのは、ツララ・エンペラー警視。その隣りには、拳銃をこちらに向けているメジレ警部。そして、その隣りには―



「…ししょお?」
首肯。
昨日の朝別れたときから、寸分変わっていない。
「なん、で…」
「死後硬直の話だよ」
即答したのは、ツララ警視。犯人を追い詰めるのがたまらないと言う顔。彼が推理を語り始めようとした、その時。
「ちょっと待った」
声の主は、メジレ。
「警視。逮捕の手柄はあんたが好きにすればいい。けど、あいつに自身の罪を宣告するのは、師であるこいつに、やらせてやってくれねえか」
カロンの眉が、僅かに跳ねる。―喜んでいる印だ。
「メジレ警部…」
「アーサー。お前も、ちゃんと見るんだ。自分の師匠の¨名探偵¨ぷりをよ」
「……」それを見ていたツララは、鼻息荒く去って行った。
「好きにするがいい」
と言う言葉を捨てて。


「とりあえず、刃物を捨ててくれないかのう」
いつも通りの、年相応の口調に戻ったメジレが、やはり拳銃を向けたまま言う。
「…」
無言で、刃物を床に滑らせ、足下に来た途端、カロンが蹴り飛ばした。それは真反対に深く刺さる。
「師匠、そう怒らないで下さいよお…」
嘆息し、ついでとばかりに、バッグを遠くへ投げ捨てる。
「ほら、これで僕は丸腰です。拳銃を下ろしてくれますか?メジレ警部。さすがに怖くて」
そう言って照れる姿に、犯罪が発覚した犯人の、焦りの様なものは感じられない。普段下宿で見る顔となんら違わない表情だ。

故に、その類いの犯罪者は恐ろしい。

「…エンペラー警視の言う通り、俺が違和感を覚えたのは死後硬直に対する、お前の意見だ」
「僕何かおかしなこと、言いました?」
平然としかし、アーサーは答える。
刺す様な視線にも、肩をすくめるだけ。
「ああ。実に初歩的なミスだ。お前は俺が渡した資料…つまり受話器の写真しか見ていない。なのに、部屋の構図を知っていた―」


『一般的に、死後硬直を策意して変化させるには、最近流行出したクーラーなんかが使えるらしいですけど…被害者宅にはクーラーどころか扇風機すらありませんし』


「…なら何で、上半身下半身の話に反応したんですか」
「お前は目敏い。俺が動揺してるのを見抜いた上で、自分のミスを上手く修正するんじゃないかと思ってな」
「いや、見抜くも何も、師匠が分かりやすいだけです」
とりあえず突っ込みをいれる弟子に、咳払い。
「っげふん。つまりお前は、知るはずの無い現場事情を知っていた=部屋の構造を知り得るのはお前が犯人だから、という判断だ」
「…僕が被害者のファンだった、と言ったら?」
「お前のバンドはメタルロックだろう」
「じゃあ、彼と友人だった」
「被害者は家へ友人を招くことは一度もなかった。第一、そのくらい警察の調査で引っ掛かる。とゆうか、¨じゃあ¨とか言ってるだろ」
「ついでに死後硬直は確かに上半身下半身別々だった。そいつはマスコミにも流さず、資料にはあった」
「お前の疑いが深まった理由が分かったか?」
メジレとのダブルコンボに、アーサーは嘆息
「じゃあ、大人しく罪を―」
「まだダメ」
即断。少年は、師へ問う。
「師匠が解いた謎、全部教えて下さい。そしたら俺が、答え合わせしますから」
場に似合わない笑顔と言い口に、さすがのメジレも血管が切れた。
「答え合わせってお前、事件を何だと―――――!」
しかし。
盟友であり彼の師である、カロンが止めた。
「終わりにしたい。だから、言わせてくれ」
「―――…」
分かった。


「お前はあちこちでバイトしていて、確か爆薬や機械にも通じていたな」
首肯。
「その腕をお前は、今回の殺人計画に使ったのだ」


まず、名探偵で有名かつ警察に通じているカロン・ホームスに弟子入りする。敵になりうる警察の情報を得る窓口というわけだ。そう言う意味でも、あの求人広告は彼には天啓だったろう。
そして、仕事やカロンとなれた頃に、計画を実行。被害者を惨殺した後に、死後硬直をごまかす為に、小形強力扇風機を作った。それをピアノの内部に設置、ある程度経ったら自爆する仕掛けだ。内部は誇りだらけだったので、とくに燃え滓も目立たなかったのだろう。
例の電話は、指紋等を付けた後に、これまた小形ボイスレコーダー。タイマー小形爆弾で、すでに押してあった連絡先―事務所に通話する様、通話スイッチが入る。あとは殺害時に録音した声をカロンに聞かせ、自分のアリバイを証明するだけ。もちろんその後、ボイスレコーダーも自爆。部屋が汚いのが災いした。

「二件目も、電話以外は同じ手だ。扇風機を仕込んだのはチェロケースだが。そして三件目―今回だ」未遂だがな、と呟いた。
「それと動機だが、中学時代にお前の先輩だったんだってな。音楽性の違いとやらで、軽音部を止めちまったらしいが。その辺りか?」
以上が、俺の推理だ。
そう言ってカロンは、どこからともなく取り出したパイプを吹す。
「…」
ゆっくり、やがてリズミカルに拍手。それを終えてアーサーは、笑顔で言った。
「百点満点です」
と、言いたいところだけれど。
「動機はやっぱり、無理でしたよね~…そこだけ七点。さすがに音楽性の違いだけで、今更殺したりしないですよぉ」
そうですねぇ…と言い、何故かメジレを見た。
「僕が言うこと、信じてくれますか?」
僅かに盟友を見、
頷いた。
「あったりまえじゃろ!」
あの笑顔で―。


「先輩達はそもそも、バンドに興味なんて無かった。俺と、今の仲間達が勝手に騒いでて、それを冷やかしてるだけだった…けど、一人だけ、違う先輩がいたんです」


アルフレッドと言うその先輩は、フルート奏者だった。が、本当はギターやキーボードをやりたかったそうだ。けれど、同学年の友人達はそういったものには興味が無いから、仕方ないからフルートでお茶を濁しているんだと、アーサーにだけ、教えてくれた。彼と自分は、たまにあって好きなバンドの話で盛り上がったりした。けれど―


「ある日。いつもの様に、先輩との待ち合わせ場所に行ったら―アル先輩は、両手の指に傷を付けられていたんだ。他の奴等―僕が、俺が殺した奴等に!!!」
先輩は、ただジャズが好きなだけだった。¨音楽性の違い¨で友情が壊れるのを恐れるような、そんな優しい人だったんだ。なのに―――
「許せなかった。けれど、証拠も何も無くて、当のアル先輩は、もうギターもキーボードも、フルートさえも扱えない、愛する音楽を奏でられない自分に絶望して、声が出なくなった上に、対人恐怖症で遠くの病院にいってしまった」
それからアーサーは、必死で犯罪の証拠を集めた。アルの自傷行為なんて不名誉を、返上したくて。バイトの合間に、必死に―けれど、警察には相手にされない日々が続き、自分で罰を下すしかないことに気付いたのだ。


「…あとは、師匠の言う通りです」



齢十七である彼、アーサー・ワトサンの復讐劇は、こうして幕を閉じた。






「…アーサー」
彼がパトカーに乗り込むのを見送る、カロンの目は、若き頃の様な、犯罪の証拠を掴んだ輝いた目でも、最近の濁った瞳とも違う、色をしていた。



「いつか、お前が罪を償えたら。デビューして、俺に教えてくれ」







「―はい、師匠!」









十数年後、アーサー・ワトサンが釈放され、ジャズバンドとして世間に名を走らせるのは、また別の話。






そして、彼より僅かに年上らしいの男が、傍らにいたことも。そして何より、二人が幸せそうだったことも―――。


補完として幾つか

・心臓が抉られていたのは、心を壊すまで苦しんだアルフレッドの苦しみを思い知らせたかったから。
・指を狙ったのは、アルと同じ目に合わせたかった。
・アーサーがカロンの邪魔をしたのはマジで天然です←
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。