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夏休みの記憶 後編








「ちーちゃんは、病気だったけど普通の子だったんだよ。すっごく可愛くて大人っぽくて、¨死んだのは十の時です¨って言ってたの~」
「…俺らと同じだな」
いつの間にか定位置に戻り、神妙に聞き入る一同。真白に嘘をついている様な様子は、見られない。そもそも五歳児に、こんな話は考えられないだろう。
「それで、¨ちーちゃん¨は何で真白ちゃんに会ったの?」
「えと、ちーちゃんは¨自分が事故で死んでから、村はどうなったのですか?¨って―」
「ちょい待ち!」
挙手し、入亜が言った。
「¨ちーちゃん¨は、事故で死んだって言ったの?」
首肯。
「…俺や太一の話と、違わないか?」
「あ…」
そうだ。彼女は自ら或いは人柱として、村の駅の礎になったのではないのか?
「…?」
ふと、真白が中空を見る。
「どうしたんや、真白?」
当然、そこには何もない。
しかし彼女は、まるで内なる声と対話する様に、数度頷いた。
「…どうしたの?」
太一が静かに問うと、真白は明るく笑って
「¨真白さんには説明が難しいでしょうから、私が話してもよろしいですか?¨、だって」
「「「―え?」」」


当惑。そして


「「「―え゛ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」」


「ままま真白、今まままそののちちちちーちゃんががこここここにいるん!?」
「ずっといたよ?」
「っサーセン!!!」
ずさあっ、と土下座する入亜。太一など自分の頭を何度も座布団で叩く。
「え?え?なんで謝ってるの?」
「…多分本人を前に、しかも百物語として話してたから、恐縮しとんのやろ」
「…うん」
寸分後、誰かにか首肯。少女は笑顔で自傷寸前の親友二人に、
「ちーちゃん全然怒ってないって!」
「「………まじ?」」
首肯。
「「…良かったぁぁぁ」」
安堵と共に倒れ込む太一。入亜は正座し直し、
「えっと、¨ちーちゃん¨本人から説明願えるのはありがたいんだけどさ、今どこにいるの?」
当然の質問に、真白は
「いるよ、目の前に」
目の前には、真白と壁と蝋燭。
「…幽霊だから、見えないのかな?」
「障子の外?」
「どこやの」
「…えっとね、ちーちゃん曰く、私の中だって」
つまり…
「¨ちーちゃん¨は」
「真白ちゃんに」
「取り憑いとるん?」
「みたいだね~」
朗らかに肯定され、驚くことすら馬鹿らしい気がしてくる。
「…じゃ、説明頼む」
「あいあいさー。…だってさ、ちーちゃん」
瞬間、不自然な風が吹いた気がした。蝋燭が揺らめき、少女の髪が靡く。閉ざされた目。それが開かれた時―少年達は、息を呑んだ。


「―はじめまして?」
そこにいるのは、間違いなく真白だ。見慣れた容姿、聞き慣れた声。だがしかし、その笑顔は明らかに妖艶。内面だけが時を経てしまったかの様だ。十歳どころか、もっと大人の気がしてくる。
開かれた瞳は、全てを見透かす様な透明さ。唇の弧だけで、背筋が震える。白い肌が際立つ漆黒の髪は、艶を増した様な―
「…あなたが、¨ちーちゃん¨ですか?」
入亜の問いに、首肯。同じ動作の筈か、全く別人の、否。別次元の、特別な動きにも似ていた。
「私の、本来の名は¨千代¨です」
それを教えたら、真白が笑顔で¨じゃあ、あなたはちーちゃんね!¨と呼んだことを、まるで楽しかった遊びの思い出がごとく、語る。
「そ、それは失礼しましたっ」
恐れ多いとばかりに頭をさげるひかるの頭に、手を置いた。
「顔を上げて下さい」
その、健康的に焼けた肌を、対照的な手で撫ぜる。
「私は、確かに何百年前も前に死んだ魂の断片。けれど、私としては、ただの子供なの。あなた達と同じ、ただの子供として―接して、欲しいです」
切なく笑む五歳児、と言うのも妙な表現だが。その笑顔が、若干の影を帯びていることに気付く。
「…そだなぁ」
不意に零れた、明るい声。
「何百年前だろーと死んでよーと、がきはがきだもんなぁ」
太一の、若干言い過ぎとも言える解釈に、
「ですよね~」と正座を崩したいー。
「じゃ、俺らもちーちゃんでええかな?」
土下座から一転、無邪気な笑顔で問うたひかる。
その切り替えの早さに、真白の中の千代は。
「―はい!」
やっと、本来の
子供らしい笑顔を、浮かべた。

「いー君と太一君の言う通り、私は生まれた時から病弱でした」
蝋燭の僅かな明かりに照らされ、霊魂の少女は語る。
「五歳くらい…ちょうど真白さんと同い年に、私は流行病にかかりました。それは感染るからと、奥座敷から出ることも、誰かと言葉を交わすことも許されない日が続きました」
「…寂しかった、よね」
「…ええ」
首肯。
しかし。けれど、と続ける表情は一転して明るい。
「私には、¨彼¨がいたから」
「¨彼¨?」
太一の問いに、柔らかい笑顔で答えた。
「たまに看に来るお医者様の息子さんで、耐性の強い方だったから、一緒にいらしては遊んで下さったんです」
けれど
「…彼は、私が十歳になる一月前に、病にかかって、床を離れられない身体になった」
「君の、病が感染ったから?」
「おい、太一!」
ひかるの突っ込みも構わず、純粋な疑問を問う彼に、千代は
「…はい」
事実を伝える。血を吐く様な、悲しい記憶であるそれを。
「耐性が強くても、お医者様の息子でも、限界があった」
そして、その一か月後、
「私は、死にました」
こっそり抜け出して、崖へ行き、足を滑らせたそうだ。
「私は…見たかった」
「?何を」
問う少年
「…彼が言っていた、星を」
「―?」
答える少女
「星?何の?」
「…その崖から、沢山見えると教わった。まるで、空の滝の様に、降り零れる流れ星の群衆…きっと、それだけあれば、願いごとの一つも叶うはずだと」
「…」
流星群。現代の都会はおろか田舎でも滅多に見られない、夜の絶景。彼女はそれに―
「何を、祈りたかったん?」
「…」
膝の上の拳が、強く握られる。
「…自分の病気を治したい、とか?」
「いいえ」
即断する。心外とばかりに、早口で彼女は答えた。
「私は、私は、彼の病を治して欲しかった!お医者様が、今の技術では無理だと嘆くのも、彼の苦しげな咳を聞くのも、嫌でたまらなかった!自分が血を吐いた方がまだましだもの!!!」
空気が、避ける様に振動する。水鏡は揺れ、蝋燭の炎は強く揺らめいた。太一達は、それに目を見張る。恐怖ではない、彼女の心中の覚悟に―畏怖を、覚えたのだ。
「―そっか」
いーは、呟く。
「でもさ…それは、¨彼¨も同じだったんやないかな?」
ひかるの、一言に
千代は、涙ぐんだ瞳を、見張った。
「だって、自分だけ治っても、君は苦しんどる。一人で遊んでも、楽しくないやろ?」
だから
「せやから君は、¨自分と彼の病が治りますよーに¨って、祈るべきやったんやないかな?」
そう、言った。
「―…そう、だね」
きっと、最善はそれだった。
双方の―皆の幸せは、そこに在ったのだ。

今となっては、どうしようもないことだけれど。
「―ありがとう」
千代は、涙を拭って
綺麗に、微笑んだ。




「私が¨一度で良いから、普通に遊んでみたい¨と言うと、真白ちゃんは快諾してくれたのです。『私に憑いて、お兄ちゃん達と好きなだけ遊びなよ、ちょうどちーちゃんと同い年だよ!』と」
「そやったんか…」
納得する一同。しかし一転して千代は、
「あの…ご迷惑でした、よね。ごめんなさい」
深々と低頭する彼女を、三人は笑い飛ばす。
「何言っとんの!今日は僕らもちーちゃんも、楽しかったんや、それに問題あるん?」
「そうそう。変に気なんか使わなくていーじゃん」
「だって俺ら、もう友達だろ?」


「―¨友達¨…」
生前の彼女には、ほとんど無かったそれ。
明るい笑顔と、その温かさが、彼女は
「―うん!」
純粋に、嬉しかった。
「よし!…てあれ?」
その時。
真白の身体が、強く光始めた。
「…成仏する時が、来た様です」
「え!?」
満足した彼女の魂は、天に返ろうとしている。
「そんな、せっかく…」
友達になれたのに。

けれど
「―良かったな!」
太一は、笑った。太陽の様に、明るく。
「きっと、天国で¨彼¨に会えるよ!」
「―」
見開かれた目には、光
「…みんな、」




彼女はそこで、真白の身体から離れた。淡い、蛍にも似たその光は、ゆっくりと天に昇っていった。



彼らには確かに、最後の言葉が聞こえた。



―ずっと、友達だよね





「―当たり前、だっつーの」
しんみりした空気。眠る妹を抱き締め、鼻を啜ったひかる。
「あれ、ひかる泣いてんの?」
「は!?違、泣いてなんか…」
「やーいひかるの泣き虫毛虫ぃ!」
「入亜まで、何いごはっ」
「その名で呼んだら拳百発な」
「「…あい」」
「んに…あれ、お兄ちゃん何でたんこぶ三つも付いてんのぉ?」



それが彼らの夏休みに起きた、ある不思議な夜の出来事であった。





翌日、片付けをせず寝てしまったことから百物語をやっていたことが発覚し、いーの祖父にこっぴどく叱られたのは、言うまでもない。
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