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夏休みの記憶 前編







「おーい、ひかる!」
夏も盛り、学校でのプール教室から帰る道すがら。突然大声で後ろから呼ばれた。
振り返れば、自分と同じ様に水泳バッグを持った少年が走って来た。隣りに来ると肩で息をする。
と、呼吸が調った途端に、
「まったく、親友のオレを置いて行くなんて酷いよ!」と言いながら、カバンをフルスイングし背に打ち付けて来た。水を含んだタオルや水着が入ったそれは、なかなか効いた。
「っ~…もぉ、たいやんのそーゆーのがぼくは嫌なんや!大体ぼくは、さっきプールで海パン脱がされたこと、まだ怒っとるんやで!?」
少年ーひかるは、ずり落ちた眼鏡を直しながら相手に抗議する。しかし相手の少年は、まるで意に介さず笑っていた。
「いやぁ、あれは悪気なんてなかったんだよ~?ただ、ぼくの華麗なクロールの手さばきが、たまたま前を通ったひかるの海パンに引っ掛かっただけで…あ痛たた!!?」
しれっと自分を讃えつつ言い訳する親友の鼻を摘み、引っ張るひかるの眼光は鋭い。
「た、い、ち?お前のせいでぼくがクラスメートの前でどんだけ大恥かいたと思ってんのん?愛しのめぐみちゃんからも変態に向けるような視線を刺されっ放しやったし。この責任、きっちりとってくれるんやろなぁ?」
「ーっひかる恐すぎ!背後にダークサイドが見える!こないだ映画で見たダース〇イダーみたいな呼吸もやめてくれぇ!悪かったぁ!!!」
彼の余りの怒り様に元凶である、太一は涙目と鼻声のコンボ付きで謝った。それで気がすんだのか、不意に顔を背けて、
「ー安田屋のみたらし」とだけ言った。鼻は摘んだままだが。
「!了解、購入するのであります。ひかる大尉!」と敬礼した。制裁は続行中なのであまり格好はつかなかったが。
それにひかるは笑み、着ている白い半袖の裾で顔を拭った。
「にしても暑いなぁ…つかたいやん、自分を褒めるのもたいがいにしぃ。それって¨じぼーじき¨って言うんやで?」胸を張って主張する彼に、太一は鼻で笑って(しつこい様だがつままれたまま)
「違うって。たしか、¨じこけんお¨だろ?」と言い、頬を引っ張る。
二人して適当な四文字熟語を主張し、言い争っていると

「ーそれを言うなら¨自画自賛¨」

二人は不意なため息含む正答に、振り返った。

真夏の日差しに焼かれたアスファルトの通学路を歩くのは、一人の少女。いや、まだ小学校にも上がらない様な小さな身体つきからして、女の子という形容がふさわしい。

身体つきは小さく、全体的にぷにぷにしたそれは決して太っているという訳では無い。
空にぽっかりと浮かぶ雲の様な、真っ白な肌。それにも負けず際立つ、純白のワンピース。
同色の麦藁帽子には、赤いリポンが一巻きしてある。髪は腰まであり、漆黒。
小さな足が包まれたシンプルなサンダル。まさに避暑地のお嬢様といったていに驚くのも束の間、


「何や、用でもあるんか?ー真白」


名前のごとく、空ける様な色の顔。二人が互いの顔の一部を引っ張りあったままなのを見て、くすりと彼女は笑った。そして、ゆっくりとかぶりを振る。
「ううん。ただ家に、いっくんが来たよ。お兄ちゃんとたいちゃんを探してる」
兄、ひかるの質問に答えた。それを聞いて二人は、
「!ーせや、今日やったな、あれ」
「ふふっ。いーも少しは待ってくれっつーの!」
一人は素直に、一人は皮肉で喜びを現す。



「真白ちゃんも来るか?」
「なぁに?」
太一の言葉に首を傾げる妹に、ひかるは笑って答えた。








「百物語」

                                 ◇

昼下がりの住宅街を、太一は全速力で走っていた。一度荷物を置いて、ひかるの家に向かったのだ。
すると何故か、途中で三人にばたりと出くわしたのだ。
「なんや、たいやん来てくれたん?」ひかるは眼鏡を外し、ポケットに押し込んでいる。
「楽しみなんだね、たいちゃん」嬉しそうに笑う真白は、兄の手を握っていた。それをニヤニヤ見ながら、後ろから
「よ、太一軍曹!」
「首尾はいいか?いー大佐!」じんべいを着こなした同い年の少年は、太一に笑いかけて敬礼をした。それに彼も同じく答える。
「ばっちりであります軍曹!ついでに昼の食料も確保済みであります!」そして走りだした少年の背を見ながら
「だから昼メシはいーやん家やて。ー走れ、太一軍曹、いー大佐の後に続けぇ!!!」
まるで指揮官の様に手を振り、ひかるは駆け出した。それに引かれて真白も走る。
太一は、真夏の日差しも跳ね返すほど身体中に楽しさのオーラを満ちさせ、
「っ上官に命令するな、この三等兵!」
慌ただしく追いかけて行く。

「相変わらず、いーの家はすげぇなあ・・・」
「そうか?ふつうだろ」
「―いやいや・・・」
交わされる二人の恒例のやり取りに、やはり恒例の突っ込みを入れる。
「このデカさは、いくら神社とはいえ異常だろ・・・」
そう。いー・・・本名入亜は、この田舎村の、土地有数である権力者の孫だ。彼の祖父は、徳の高い厳しい僧だとかで、自然入亜にも自分の価値観を身に付けさせようとする。
とはいえ、両親を亡くした孫を男手一つで育ててくれた祖父に、感謝はしているようで。
「だからって女みたいな名前付けるこたぁねぇよなぁ」
と、照れた様に憎まれ口を叩く。
入亜というこの名、まだ赤子の内に親がいなくなったので彼がつけたらしい。代々彼の家に伝わる因習だとか。
「先祖の名を何代目かにつけるらしくて、オレはダイレクトにそれに当たったって訳」
その先祖はかつてのこの村を治める大名の妃だったとかで・・・まぁ、細かい話はよそう。
とにかくその女めいた名が嫌いで、入亜は渾名で呼ぶ様友人には言いつけている。
「で、いー。じいさまは何処にいんだよ?」
問えば、ニンマリと笑い
「今日は檀家巡りで忙しいってさ。で、夜は例のごとく飲み会」僧である彼も飲むのかという質問はスルーしよう。とにかく、120%の確率で百物語など止めに入るだろう大人はいない。これから此所は彼等の城、無法地帯―フリーダムになるわけだ。
「ところで太一、その袋は何?」
いーが示したのは、彼が手提げるビニール袋。中身は小振りな箱の様だが…。
「ふっふっふ、やっと気付きましたか、いー君」打って変わって悪の科学者めいた口調で、不意にそれをひかるに渡した。
それを恭しく受け取り、次の瞬間、
「取ったどー!!!」と、鬼の首を取ったがごとく振りかざすひかる。
中身はお察しの通り、安田屋のみたらし団子、五本入り。先程購入したそれはひかるのお気に入りだ。四人の間では彼専用機嫌取りの道具、あるいは太一が何か彼にやらかした証と認識されている。
「で、今度は何をやったんだ?」
「それは「あーお腹すいたなあ!いー、飯食わせてくれ!」誤魔化す様にひかるの言葉をかき消し、元凶は家主の手を引いた。「はいはい」と半笑いを浮かべて、それに仲間は着いて行く。


                                  ◇


昼ご飯にと神主が用意しておいてくれたそうめんを(入亜の祖父は彼らが遊びに来ることは知っている)騒ぎながら食べ終え、概要を知らない真白への説明も含め、確認を行う。
「知っての通り、今日ここに集まってもらったのは他でもない。“プロジェクトH”の為だ」
「?なんでHなの?」
早速疑問符を浮かべる妹に、ひかるは苦笑しながら答える。
「祖父さまに知られたらまずいからな、暗号みたいなもんや」
「だから百物語をアルファベットで表すと、頭文字はH。だからプロジェクトH!」
それに太一が順繰りに補足すると、真白は納得した様に頷いて一拍。
「・・・でも、Hってちょっと恥ずかしくない?視線集める気がするけど・・・」







沈黙






「「「っそれかぁ!!?」」」




そして絶叫。
当惑する真白に少年達は無意識に解説(暴露ともいうが)をした。
曰く、以下の通り。
「ああ…どおりでみんなの視線が痛いと思ったんだ…」
「せやけどまさかこんなトラップが!愛しのめぐみちゃん!ただでさえ目を合わせてくれないのはそれが理由やのん!?」
「やっぱオレの海パン事件は関係無かったんじゃ…あ痛たた!!」
「担任の先生が『男の子だからって言葉は選びなさい?』って言ってたのもこれかまさか!」
「「「なんてことだぁぁぁ!!!」」」





神社にはしばらく少年達の、阿鼻叫喚が響き渡っていたそうな・・・。
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